「サイコパスかどうか」より、実害を見る──サイコパシーとの向き合い方
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人当たりは悪くないのに、どこか心が通っていないように感じる人がいる……。平然と嘘をついたり、相手を傷つけても気にしていないように見えたりする、そんな相手は「サイコパス」なのでしょうか。心理学者の小塩真司氏が、サイコパシー…
職場やプライベートで、人当たりは悪くないのに、どこか心が通っていないように感じる人がいる……。そんな相手とどう関わればよいのか悩む人はいないでしょうか。「サイコパス」という言葉のイメージにとらわれず、実際に何を見るべきなのか、心理学者の小塩真司氏が解説します。
心理学のキーワードを簡単に解説する「小塩先生の3分心理学解説」、今回のテーマは「サイコパシー」。身近にいるかもしれない、冷淡で心が通わないと感じる相手と、どう向き合えばよいのかを考えます。
プロフィール
小塩 真司 Atsushi Oshio
早稲田大学文学学術院文化構想学部教授
名古屋大学大学院教育学研究科博士課程後期課程修了、博士(教育心理学)。中部大学人文学部准教授を経て、2012年、早稲田大学文学学術院文化構想学部准教授。2014年より現職。パーソナリティ心理学、発達心理学が専門。『性格がいい人、悪い人の科学』『SPSSとAmosによる心理・調査データ解析』『大学生ミライの因果関係の探究』など、著書多数。
【今回のお悩み】 職場やプライベートで、人当たりは悪くないのに、どこか心が通っていないように感じる人がいます。自分に不利益が及びそうになると平然と嘘をついたり、相手を傷つけてもあまり気にしていないように見えたりします。こうした人は、いわゆる「サイコパス」なのでしょうか?こういった人とはどのように関わればいいでしょうか?
「サイコパス」という言葉を聞くと、映画やドラマに出てくる冷酷な犯罪者を思い浮かべる人は少なくないでしょう。しかし、心理学で扱われるサイコパシーは、必ずしも犯罪や暴力と直結するものではありません。サイコパシーとは、共感性の乏しさ、冷淡さ、罪悪感の乏しさ、衝動性、責任感の欠如、恐怖を感じにくい傾向などが組み合わさったパーソナリティ特性のことです。
━━サイコパシーというと、「怖い人」「危険な人」というイメージがあります。
たしかに、そうしたイメージはありますよね。ただ、サイコパシーは「この特徴がすべて当てはまればそうだと判断できる」というものではありません。
たとえば、風邪でも、発熱、咳、鼻水、喉の痛みが必ず全部そろうわけではありませんよね。それと同じように、サイコパシーもいくつかの特徴が重なって見られるものであり、程度の問題として考える必要があります。
冷淡に見えるからといって、すぐにサイコパシーだと判断できるわけではありません。また、サイコパシーの傾向が高いからといって、必ず問題行動を起こすわけでもありません。
━━サイコパシーが高い人は、普段の生活の中で見分けられるものなのでしょうか?
実際には、簡単にはわからないと思います。
サイコパシーというと、人当たりが悪く、明らかに冷酷な人を想像するかもしれません。しかし、必ずしもそうではありません。むしろ、普通に接しているだけではわからない場合も多いでしょう。人当たりがよく、社交的に見える人もいます。
ただ、深く関わるようになると、「心が通っていない感じがする」「相手の痛みをあまり気にしていないように見える」と感じることはあるかもしれません。
━━人当たりがよくても、内面では冷淡な場合があるということですね。
そうですね。ただし、ここで注意したいのは、「人当たりがいいのに自分のことしか考えていない人」を、すぐにサイコパシーと結びつけないことです。
人は誰でも、自分の利益を守ろうとします。追い詰められたり、自分に不利益が生じそうになったりすれば、嘘をつくこともあります。もちろん、嘘をつくことを肯定しているわけではありません。ただ、嘘をつく、責任を避ける、自分を守ろうとする、といった行動は、普通の人にも起こりうるものです。
サイコパシーを考えるときに大切なのは、「その人がサイコパスかどうか」と決めつけることではなく、どのような状況で、どのような実害が生じているのかを見ることです。
「サイコパスかどうか」より重要なのは実害
━━「サイコパスかどうか」を見抜くこと自体は、あまり意味がないのでしょうか?
日常生活では、それほど意味がないかもしれません。
研究としてサイコパシーを測定する意義はあります。しかし、職場や恋愛関係で、「この人はサイコパスかどうか」を判断しようとしても、簡単にはわかりませんし、分かったところで問題が解決するわけでもありません。
大切なのは、実際に何が起きているかです。たとえば、職場でルールに反することが起きているなら、職場のルールに沿って対処する。法的な問題があるなら、法的に対処する。恋愛関係で「何かおかしい」と感じるなら、距離を取る、付き合い方を見直す。そうした具体的な対応のほうが重要です。
━━「サイコパスだから危ない」と考えるのではなく、実害を見るということですね。
その通りです。
サイコパシーが悪いというより、問題は実害です。相手の言動によって、自分が傷ついているのか。不当に責任を負わされているのか。嘘によって損害が出ているのか。怖さや違和感を覚えているのか。そこを見る必要があります。
「サイコパスだから排除すべきだ」と一元的に捉えるのは、あまりよくありません。サイコパシーの傾向が高い人でも、社会の中で普通に生活している人はいます。家庭や仕事の中で、大きな問題を起こさずに暮らしている人もいるでしょう。
ただし、それは被害を我慢しなさいという意味ではありません。もし実害が出ているなら、その実害に対して具体的に対処することが必要です。
━━サイコパシーは、生まれつきのものなのでしょうか。それとも環境で決まるものなのでしょうか?
パーソナリティ特性として考えると、遺伝と環境の両方が関わっていると考えられます。
ただし、「こういう家庭で育ったからサイコパシーになる」というように、単純に説明できるものではありません。環境といっても、特定の家庭環境だけを指すわけではなく、日々の暮らしの積み重ねや経験も含まれます。
つまり、「これをしたからこうなる」「こう育てられたからこうなる」と簡単に言えるものではないのです。
━━ソシオパスという言葉も聞きますが、サイコパスとは違うのでしょうか?
一般的にはサイコパスとソシオパスを分けて説明することもありますが、研究上はサイコパシーが中心的な概念です。
ソシオパスは広く知られた言葉ではあるものの、統一された定義があるわけではなく、「サイコパスは先天的でソシオパスは後天的」といった単純な区別も必ずしも適切ではありません。
心理学的にはサイコパシーという概念で考えたほうがよいでしょう。
共感力がないのではなく、反応の仕方が違う
━━サイコパシーが高い人は、共感力が低いのでしょうか?
ここも少し注意が必要です。
サイコパシーが高い人は、相手と一緒に喜んだり悲しんだりする情動的な共感は弱いかもしれません。しかし、相手が何を感じているかを理解する認知的な共感がまったくないとは限りません。
むしろ、相手の感情を理解したうえで、それを利用することもあり得ます。相手が何に傷つくのか、何を不安に思うのかがわからなければ、人を動かすこともできません。ですから、「共感力が低い」と一言でまとめると、少し乱暴です。
━━相手の気持ちがわからないというより、理解はできていても同じように感情を共有するとは限らない、ということですね。
そうです。
相手が悲しんでいることはわかる。でも、自分も悲しくなるわけではない。相手が傷ついていることは理解できる。でも、そこで強い罪悪感を覚えるとは限らない。そういう状態として考えるとわかりやすいかもしれません。
サイコパシーを単純に「共感力がない人」として捉えるのではなく、感情への反応の仕方が違うものとして見る必要があります。
━━職場や恋愛で、こうした相手に出会った場合はどうすればよいのでしょうか?
まず大切なのは、相手を「サイコパス」と決めつけて判断しようとしないことです。考えるべきことは、自分への影響です。
たとえば、相手の言動で繰り返し傷ついている。平然と嘘をつかれる。責任を押しつけられる。こちらの不安や痛みを軽んじられる。そうした実害があるなら、無理に理解しようとする必要はありません。
職場であれば、記録を残し、上司や人事に相談して、ルールに沿って対応する。恋愛やプライベートであれば、違和感を軽視せず、距離を取ることも必要です。
「この人はサイコパスなのか」と悩み続けるよりも、「この関係は自分にとって安全か」「この人と関わり続けることで、自分にどんな影響が出ているか」を見るほうが大切です。
━━サイコパスかどうかにこだわるのではなく、実害を見るということですね。
そうですね。
サイコパシーかどうかが分かったとしても、それで状況が変わるわけではありません。重要なのは、実際に起きている問題に対処することです。実害がないなら、必要以上に警戒しすぎる必要はありません。一方で、実害があるなら、それは我慢するものではありません。
相手がサイコパシーかどうかよりも、自分が傷ついていないか。損な役割を負わされていないか。違和感を見過ごしていないか。そこに目を向けることが大切です。
【小塩先生のアドバイス】
サイコパシーは、冷淡さや罪悪感の乏しさなどを含むパーソナリティ特性ですが、それだけで相手を危険な人だと決めつける必要はありません。大切なのは、「サイコパスかどうか」を見抜くことではなく、実際に自分にどのような影響が出ているかを見ることです。相手の言動によって傷ついたり、不利益を受けたり、違和感が続いたりする場合は、距離を取る、相談する、会社ならルールに沿って対処することを考えましょう。