他人を思い通りに動かす「マキャベリアニズム」

他人を思い通りに動かす「マキャベリアニズム」

コラム

Outline

職場に、表立って強く主張するわけではないのに、いつの間にか自分に有利な状況を作っている人がいる……。そんな相手に違和感を覚えながらも、どう関わればよいのか悩む人はいないでしょうか。他人を巧みに動かす傾向をどう見抜き、適度…

職場に、表立って強く主張するわけではないのに、いつの間にか自分に有利な状況を作っている人がいる……。そんな相手に違和感を覚えながらも、どう関わればよいのか悩む人はいないでしょうか。他人を巧みに動かす傾向をどう見抜き、適度な距離を取ればよいのか、心理学者の小塩真司氏が解説します。

心理学のキーワードを簡単に解説する「小塩先生の3分心理学解説」、今回のテーマは「マキャベリアニズム」。職場で人の言動に違和感を覚えたとき、どう受け止めればよいのかを考えます。

プロフィール

小塩 真司 Atsushi Oshio

早稲田大学文学学術院文化構想学部教授
名古屋大学大学院教育学研究科博士課程後期課程修了、博士(教育心理学)。中部大学人文学部准教授を経て、2012年、早稲田大学文学学術院文化構想学部准教授。2014年より現職。パーソナリティ心理学、発達心理学が専門。『性格がいい人、悪い人の科学』『SPSSとAmosによる心理・調査データ解析』『大学生ミライの因果関係の探究』など、著書多数。

【今回のお悩み】 職場に、表立って強く主張するわけではないのに、いつの間にか自分に有利な状況を作っている同僚がいます。周囲もその人に振り回されているように見えるのですが、本人はうまく立ち回っているため、なかなか問題として指摘されません。こうした人に巻き込まれないためには、どのように関わればいいのでしょうか。

職場では、強く主張しているわけではないのに、なぜか周囲を自分の思う方向へ動かしてしまう人がいます。あるいは、自分を弱い立場に見せながら、結果的には有利な状況を作っている。

こうした振る舞いを考えるうえで参考になる概念が「マキャベリアニズム」です。

マキャベリアニズムとは、簡単にいえば「自分の目的や利益のために、他者を操作しようとする傾向」のことです。もともとは、16世紀の政治思想家ニッコロ・マキャベリの思想に由来しています。マキャベリは『君主論』の中で、権力を獲得し、維持するためには、理想論や道徳だけでなく、現実的な判断が必要だと説きました。

心理学では、その考え方をもとに、他者操作や冷静な利害計算、道徳的規範へのこだわりの弱さといった特徴を含むパーソナリティ特性として、マキャベリアニズムが扱われるようになりました。

━━なるほど。マキャベリアニズムは「人を操る」というイメージで捉えるとよいのでしょうか?

中心にあるのは、まさに他者操作です。自分の利益や目的のために、他の人を自分の望む方向へ動かしていく。そこでは、道徳的に正しいかどうかよりも、目的を達成できるかどうかが優先されやすくなります。

ただし、「操る」といっても、必ずしも露骨に相手を支配するという意味ではありません。強く言いくるめることもあれば、自分を弱く見せたり、かわいそうな立場に見せたりすることで、周囲の反応を誘導することもあります。

たとえば、職場で自分が責任を負わないように、周囲に少しずつ情報を流す人がいます。本人は計画的にやっているつもりがなくても、結果として周りの人を自分の都合のよい方向へ動かしている場合がある。そういう振る舞いも、マキャベリアニズム的だといえます。

━━意図的に人を操っているとは限らないのですね。

そうです。マキャベリアニズム的な行動は、必ずしも「最初から計画してやっている」とは限りません。自然に身についている場合もあります。

人は日常の人間関係の中で、周囲からさまざまなフィードバックを受けています。何かを言ったときに相手がどう反応したか。自分の振る舞いによって、責められたのか、許されたのか、助けてもらえたのか。そうした経験を通じて、人は行動を学習していきます。

その学習の方向性が、「周囲の人を円滑にする」ほうへ向かう人もいれば、「自分の利益を守る」ほうへ向かう人もいます。後者が強くなると、周囲に気づかれないように自分に有利な状況を作るスキルが磨かれていくことがあります。

━━特性というより、スキルのようにも聞こえます。

両方の側面があります。特性としてマキャベリアニズムが高い人は、他者を利用したり、目的のために人を動かしたりすることに抵抗が少ない傾向があります。ただし、それが上手いか下手かは別問題です。

下手な人は、すぐに周囲から嫌われます。「あの人は人を利用している」と気づかれてしまうからです。一方で、非常に上手い人は、相手に操作されていることを気づかせません。周囲の人はむしろ感謝していたり、満足していたりするかもしれない。けれども、結果的にはその人の思う方向に動かされているわけです。本当に高度な他者操作は、周囲からは見えにくいのです。

マキャベリアニズムは必ずしも「悪」ではない

━━人を操作すると聞くと、どうしても悪い印象を持ってしまいます。

たしかに、個人の利益だけを優先して周囲を利用している場合は、問題のある行動として見られます。自分だけが得をするために情報を操作したり、責任を他人に押しつけたりすれば、組織や人間関係に悪影響を与えるでしょう。

ただし、マキャベリアニズム的な行動が、常に悪いとは限りません。ポイントは「何の利益を優先しているのか」です。

たとえば、リーダーが組織全体の利益のために人を巻き込み、メンバーのやる気を引き出し、会社の方向性に合わせて行動を促す。これも広い意味では、人を動かしているわけです。目的が個人の利益ではなく、組織やチームの利益であれば、マキャベリアニズム的な要素がリーダーシップとして働くこともあります。

━━目的によって、評価が変わるということですね。

そうです。誰の利益のために動いているのか。結果として誰かに被害が生じているのか。法律や倫理に反していないのか。そうした条件によって、同じような他者操作でも評価は変わります。

国と国との交渉でも同じです。プライドを優先して強く出ることが、必ずしも国益にかなうとは限りません。時には、あえて弱く見せたり、譲歩したように振る舞ったりしながら、次の利益を引き出すこともあります。したたかに行動することは、ある種マキャベリアニズム的だといえます。

つまり、マキャベリアニズムは「ずるさ」だけを意味するわけではありません。目的達成のために、相手の出方を見ながら戦略的に振る舞う傾向でもあるのです。

━━ビジネスシーンでも、マキャベリアニズム的な人は珍しくないのでしょうか?

珍しくはありません。マキャベリアニズムも、ナルシシズムやサイコパシーと同じように、人によって高い低いがあります。特別な人だけが持っているものではなく、誰にでも多少はある特性だと考えたほうがよいでしょう。

ただし、気づきやすさには違いがあります。ナルシシズムが高い人は、発言や態度に出やすいため、周囲から見てもわかりやすい。自分を大きく見せたい、称賛されたいという傾向が表に出やすいからです。

一方で、マキャベリアニズムが高い人は、自己利益を最大化しようとしていることを周囲に気づかせないように振る舞う場合があります。そのため、近くにいても気づかないことがあります。むしろ「いい人」「気が利く人」「頼りになる人」と見られている場合さえあるでしょう。

━━見抜くのが難しいのですね。

そうですね。特に上手い人ほど、周囲に不自然さを感じさせません。自分が前に出るのではなく、相手に選ばせているように見せる。責任を負っているように見せながら、実際にはリスクを回避する。弱い立場に見せながら、相手の判断を誘導する。こうしたことを自然にやっている場合もあります。

もちろん、本人が明確な悪意を持っているとは限りません。自分を守るために身につけた振る舞いが、結果的に他者操作になっていることもあります。

━━マキャベリアニズム的な人と職場で関わる場合、どう向き合えばよいのでしょうか?

まず大切なのは、「相手が悪人かどうか」を決めつけることではありません。人を動かす力そのものは、リーダーシップにもなりますし、組織を守る力にもなります。問題は、その力が何のために使われているかです。

相手の発言や態度だけでなく、結果として誰に利益が生じているのか、誰がリスクを負わされているのかを見ることが大切です。いつも特定の人だけが責任を回避している。周囲が動かされているのに、本人だけが得をしている。そうした構図が繰り返される場合は、距離の取り方を考えたほうがよいでしょう。

また、自分自身もマキャベリアニズム的な振る舞いをしていないか、振り返ることも必要です。自分の利益を守ること自体は悪いことではありません。ただ、そのために相手を利用していないか。組織全体の利益を損なっていないか。相手に不当な負担を押しつけていないか。そこを冷静に見ることが重要です。

━━自分にもある特性として捉えることが大切なのですね。

その通りです。マキャベリアニズムは、極端な悪人だけのものではありません。人は誰でも、自分を守ろうとしますし、自分の利益を優先したくなる場面があります。そのときに、周囲をどう動かすのか。どこまでを許容できる戦略と考えるのか。そこに個人差が出ます。

職場では、利害が絡みます。評価、昇進、責任、成果、報酬。そうしたものがある以上、人が戦略的に振る舞うこと自体は避けられません。だからこそ、相手の言葉だけでなく、構造を見ることが大切です。

誰が得をしているのか。誰が負担しているのか。誰が見えないところで意思決定を動かしているのか。そこに目を向けることで、マキャベリアニズム的な振る舞いに巻き込まれにくくなるでしょう。

【小塩先生のアドバイス】

マキャベリアニズム的な人に振り回されないためには、相手の言葉だけで判断しないことが大切です。利益や責任が誰に偏っているのかを冷静に見ていくと、相手の振る舞いの意図が見えやすくなります。また、自分自身も同じように、無意識のうちに人を都合よく動かそうとしていないか振り返ってみましょう。マキャベリアニズム的な傾向を持つ人は一定数います。相手の振る舞いに違和感を覚えたときは、利益や責任の偏りを見抜いたうえで、必要以上に巻き込まれないよう、適度な距離を取ることも大切です。

← POT Magazineに戻る