ゴリラから学ぶ組織運営の原点

ゴリラから学ぶ組織運営の原点

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デジタル化やグローバル化の波が押し寄せ、組織のあり方が問われる現代。40年以上にわたりゴリラの生態を研究してきた霊長類研究の第一人者、元京都大学総長で総合地球環境学研究所の所長である山極壽一氏は、ゴリラ社会には人間が学ぶ…

デジタル化やグローバル化の波が押し寄せ、組織のあり方が問われる現代。40年以上にわたりゴリラの生態を研究してきた霊長類研究の第一人者、元京都大学総長で総合地球環境学研究所の所長である山極壽一氏は、ゴリラ社会には人間が学ぶべき重要な示唆があると説く。力による支配ではなく信頼関係を重視するゴリラのリーダーシップスタイルや、組織と人数の絶対法則など、霊長類研究から見えてくる組織運営の在り方について、山極氏に聞いた。

山極 壽一 (やまぎわ・じゅいち)

総合地球環境学研究所 所長、理学博士。ルワンダ共和国カリソケ研究センター客員研究員、日本モンキーセンター研究員、京都大学霊長類研究所助手、京都大学大学院理学研究科助教授、同教授、同研究科長・理学部長を経て、2020年まで第26代京都大学総長。人類進化論専攻。屋久島で野生ニホンザル、アフリカ各地で野生ゴリラの社会生態学的研究に従事。 日本霊長類学会会長、国際霊長類学会会長、日本学術会議会長、総合科学技術・イノベーション会議議員を歴任。2025年国際博覧会(大阪・関西万博)シニアアドバイザーを務める。南方熊楠賞、アカデミア賞受賞。著書に『人生で大事なことはみんなゴリラから教わった』(2020年、家の光協会)、『スマホを捨てたい子どもたち―野生に学ぶ「未知の時代」の生き方』(2020年、ポプラ新書)、『京大というジャングルでゴリラ学者が考えたこと』(2021年、朝日新書)、『猿声人語』(2022年、青土社)、『動物たちは何をしゃべっているのか?』(2023年共著、集英社)、『共感革命-社交する人類の進化と未来』(2023年、河出新書)など多数。

平尾 譲二(AlphaDriveグループ執行役員・POT Institute研究所長)

東京工業大学工学部建築学科卒業。株式会社リクルート(現リクルートホールディングス)に入社後、インターネットマーケティング局においてSEO・SEMの全社エバンジェリストを務めたのち、じゃらんnetの集客戦略全般を担当して全社イノベーション賞を受賞。2011年に社内新規事業制度「NewRING(現Ring)」でグランプリを受賞後、一貫して新規事業開発に携わる。新規事業開発プログラム「Recruit Ventures」を立ち上げ、事務局長兼インキュベーションマネジャーとして風土醸成・案件募集から事業育成・人材育成までを統括。約2000のエントリープロジェクト、約60チームの事業検証に携わり、事業開発と事業開発人材としてのスキルアップの両面を支援。一貫して新しい価値の創造、特に再現性の高い仕組みづくりに取り組んだ経験をベースとして、2018年8月、株式会社アルファドライブ取締役に就任。2019年11月、保有全株式を譲渡してユーザベースグループ入りし、NewsPicks for Businessの事業開発を兼任。2023年1月より、AlphaDrive/NewsPicks 専門役員 POT Institute 研究所長に就任。

小谷 奉美(POT Institute 主席研究員)

株式会社Seize The Day 代表取締役 / POT Institute 主席研究員
コロラド大学デンバー校ビジネス学部金融学科卒
インテル株式会社で社長補佐官として、役員と共に経営戦略、事業の方向性、コミュニケーション戦略の策定から発信まで一貫して取り組むなど幅広い責務を遂行。2016年に株式会社Seize The Dayを立ち上げ、これまでの豊富な職務経験を活かし、これまでにFortune500企業を含む世界20か国以上の企業において、200名を超える経営トップや役員にエグゼクティブ・コーチングを行い、さらにリーダーシップトレーナーとして、3000人以上のリーダーに対しマインドセット変革など、リーダー育成を行う。また、システムコーチングの手法を用い、グローバル企業の組織開発コンサルティングも手がけている。さらに、2021年よりPOTに参画し、主席研究員としても活動中。公認心理士として心理学の知見を活かしパーソナリティ心理学の研究を行う。人の特性や組織文化の評価に関するアセスメントの開発から製品化まで一貫して手がける。また、人材育成・組織開発への応用に向けた研究やプログラムの開発も行なっている。

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力による支配ではなく信頼で導く ゴリラに学ぶ真のリーダー像

平尾 企業変革や新規事業の創出に関する研究を行うなかで、1つの大きなテーマとなるのが「リーダーシップ」です。山極先生は長年、ゴリラの研究をされてきましたが、その知見は現代の組織経営にも大きなヒントを与えてくれるのではないかと感じています。まず、ゴリラの社会から見えてくる人間社会やリーダーシップについて、お聞かせください。

山極 ゴリラの社会は、実は人間社会の原型に近いかたちをしています。人類の進化は700万年ほど続いてきましたが、その大半は狩猟採集の生活でした。農耕が始まったのはわずか1万年ほど前のことです。ゴリラの社会では、メスが自由に動き、オスを頼れないと感じたら、別の群れに移ることができます。そのため、リーダーであるオスは力による支配ではなく、メスや子どもたちの信頼を得ることが必要不可欠です。

平尾 リーダーが一方的に決めるのではなく、メンバーを尊重するわけですね。

山極 そうです。体格差があるにもかかわらず、ゴリラのオスは力による支配を選びません。力による支配よりも信頼関係に基づくリーダーシップのほうが、メスが離れずに群れを維持できることがわかっているからです。

小谷 企業にリーダーシップの研修を行う際、山極先生のゴリラ研究をよく引用しています。導入部分で、ゴリラの写真を見せながら「群れのトップのゴリラは強そうで支配的なイメージがありますが、実は違うんですよ」と伝えると、参加者が強い関心を示します。

山極 ボスとリーダーの違いですね。ゴリラはボスが仕切っているように思われがちですが、実はリーダー型で社会を形成しています。ボス型の社会を形成しているのは、ニホンザルですね。リーダーはボトムアップで、メンバーから「あなたがリーダーだから、私たちはついていきます」と信頼される存在です。一方、「私がトップだから従いなさい」と命令するのがボスです。

平尾 ゴリラのリーダーはどのようにして信頼を得ているのでしょうか?

山極 ゴリラのオスは、保育士のような役割も担っています。メスは、自分が餌を探すために、オスの近くに子どもを置いていってしまうのです。だからオスが子どもたちの面倒を見る。そして、何か危険が迫ったときは真っ先に飛んでいく。自分の体が大きいことを活かして、群れを守るわけです。また、見た目の特徴も重要です。背中が白いシルバーバックは、暗い森の中で目印になる。メスや子どもたちは、その白い背中を目印に安心して付いていけるのです。

小谷 外見的特徴も含めて、リーダーとしての資質が備わっているわけですね。

山極 リーダーは人々の関心を惹きつけなければなりません。昔、松下幸之助さんが新入社員の面接で、将来リーダーになれる条件として3つ挙げていました。「愛嬌がある」「運が良さそうに見える」「背中で語る」。まさにゴリラのリーダーと同じ要素です。

平尾 群れの中での意思決定はどのように行われているのでしょうか?

山極 「ゴリラの民主主義」とでも呼ぶべき仕組みがあります。リーダーのゴリラが休憩場所から出発するとき、胸を叩いて「さあ、行こう」という合図を出す。でも、メスたちの意見が分かれた場合は、多数派の方向に進みます。力で押し切ることはしません。リーダーが高圧的だと、メスたちは別の群れに移ってしまう。だからリーダーはメンバーの意思を尊重せざるを得ないのです。

人の脳は150人以上に対応していない 組織と人数の絶対法則

平尾 大企業での新規事業開発や組織変革を行う際に直面するのが「適切な組織規模」の問題です。人間が効果的に協力し合える組織の規模には、何か法則のようなものがあるのでしょうか。

山極 人間が適切に関係を維持できる集団の規模の上限を表す「ダンバー数」という指標があります。これは、私の仲間であるロビン・ダンバーという霊長類学者が見出した法則で、人間の場合、信頼できる人数の上限が150人です。これは人間の脳の大きさと密接な関係をもっています。人類の脳が大きくなってきた理由は、実は言語を獲得したからではありません。仲間との関係性を記憶・維持するために大きな脳が必要だったということがわかってきています。約200万年前、人類の脳が約500ccというゴリラの脳よりもやや大きくなった時期の集団サイズは、30人程度でした。その後、現代人の脳の容量である1400~1600ccに至る過程で、適切な集団サイズが150人程度まで拡大したのです。

小谷 企業で働いていた時、組織が大きくなるにつれて一体感が薄れていくような感じを経験しました。これはダンバー数と関係があるのでしょうか?

山極 その通りです。現代でも食料生産をせずに自然の恵みだけで暮らしている狩猟採集民は、だいたい150人程度の集団で暮らしています。これは決して偶然ではありません。組織の規模には明確な区切りがあり、50人と150人という二つの重要な境界があります。

15人規模だと個性的な議論は展開できますが、それ以上には広がっていきません。この規模では明確なリーダーまでは必要ないものの、意見をまとめるファシリテーターが求められます。組織が50人規模になってくると、明確なリーダーが不可欠になります。そして150人というのは、一つの組織としてまとまることができる上限です。

平尾 オンラインでのコミュニケーションが当たり前になった今でも、その法則は変わらないのでしょうか?

山極 組織を維持していく上で重要になるのが、対面でのコミュニケーションです。オンラインツールも活用できますが、規模に応じて最低限必要な対面の頻度というものがあります。5人規模のチームでは毎日の顔合わせが必要で、15人規模では週に1回、50人規模では月に1回、そして150人規模では年に1回は対面での集まりを持つ必要があります。

現代はSNSの時代ですから、一度対面で信頼関係を築いた後は、オンラインでのコミュニケーションでも、ある程度関係性を維持することができます。しかし、最初の信頼関係構築は、対面でなければいけません。組織の規模に応じた適切な対面の頻度を理解し、メンバーの新陳代謝も含めた組織運営の方法を、リーダーはわきまえておくべきです。

小谷 現代は組織の形も急速に変化していますが、ダンバー数をどのように活かしていけばよいでしょうか?

山極 重要なのは、目的に応じて適切な組織の規模を選ぶことです。例えば、新規事業などのイノベーティブな取り組みには、5人程度の小規模チームが適している。一方で、大きな組織全体を動かすときは、150人という数字を意識しながら、適切なサブグループを作っていったほうがよいでしょう。これからの時代、組織は必要に応じて形を変えていく柔軟性が求められます。ただし、その際も人間の本質的な特性、つまり適切な規模とコミュニケーションの重要性は変わらない。この原則を踏まえた上で、変化に対応していかなければなりません。

小谷 結局のところ、どんなに技術が発達しても、組織運営というものは、人と人との関係性が基盤になるということですね。

山極 そうです。デジタル化やグローバル化が進んでも、人間そのものは変わらない。むしろ、変化が激しい時代だからこそ、本来的な人間同士のコミュニケーションに立ち返って組織を考えることが重要になってきているのです。

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