【変人類学】評価軸を定めるな。社員の”変”なところを伸ばす考え方
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社員の「変」なところを伸ばすことが、イノベーションに繋がる。東京学芸大学で変人類学を研究している小西公大准教授によると、変化が激しく先行きを見通すことが難しい今こそ、社員が持つ「変」なところに注目すべきだという。Alph…
社員の「変」なところを伸ばすことが、イノベーションに繋がる。東京学芸大学で変人類学を研究している小西 公大准教授によると、変化が激しく先行きを見通すことが難しい今こそ、社員が持つ「変」なところに注目すべきだという。
AlphaDriveの研究開発機関である「POT Institute」による小西氏へのインタビュー後編では、どのように社員の「変」なところを伸ばし、企業成長につなげていくべきか明らかにする。(前編はこちら)
小西 公大(こにし・こうだい)
東京学芸大学 人文社会科学系 教育学部 准教授
1975年生まれ、千葉県出身。博士(社会人類学)。東京大学、東京外国語大学での研究職を経て、2015年より現職。現在は社会人類学的な知見を基盤として、音楽・芸能やアート手法を用いた社会的ネットワークの構築や地域開発の可能性に関する研究と実践に勤しんでいる。フィールドも、インドとともに日本の島嶼部に広がっている。主な著作は『人類学者たちのフィールド教育:自己変容に向けた学びのデザイン』『萌える人類学者』『フィールド写真術』(共著)など。
平尾 譲二(ひらお・じょうじ)
AlphaDriveグループ執行役員 / POT Institute研究所長
東京工業大学工学部建築学科卒業。株式会社リクルートに入社し、じゃらんnetの集客戦略全般を担当して全社イノベーション賞を受賞。2011年に社内新規事業制度「NewRING(現Ring)」でグランプリを受賞。新規事業開発プログラム「Recruit Ventures」を立ち上げ、事務局長兼インキュベーションマネジャーとして風土醸成・案件募集から事業育成・人材育成までを統括。2018年8月、株式会社アルファドライブ取締役に就任。2019年11月、保有全株式を譲渡してユーザベースグループ入りし、NewsPicks for Businessの事業開発を兼任。
小谷 奉美(こたに・ともみ)
株式会社Seize The Day 代表取締役 / POT Institute 主席研究員
コロラド大学デンバー校ビジネス学部金融学科卒
インテル株式会社で社長補佐官として、役員と共に経営戦略、事業の方向性、コミュニケーション戦略の策定から発信まで一貫して取り組むなど幅広い責務を遂行。2016年に株式会社Seize The Dayを立ち上げ、これまでの豊富な職務経験を活かし、これまでにFortune500企業を含む世界20か国以上の企業において、200名を超える経営トップや役員にエグゼクティブ・コーチングを行い、さらにリーダーシップトレーナーとして、3000人以上のリーダーに対しマインドセット変革など、リーダー育成を行う。また、システムコーチングの手法を用い、グローバル企業の組織開発コンサルティングも手がけている。さらに、2021年よりPOTに参画し、主席研究員としても活動中。公認心理士として心理学の知見を活かしパーソナリティ心理学の研究を行う。人の特性や組織文化の評価に関するアセスメントの開発から製品化まで一貫して手がける。また、人材育成・組織開発への応用に向けた研究やプログラムの開発も行なっている。
(前半はこちら)
社員が本来持つ”変”を引き出し、伸ばそう
小谷 社員の「変」を伸ばすことが、イノベーションの創出につながるとはいえ、実際に企業で「変である」ことを受け入れる体制づくりは難しそうに感じます。
小西氏 古代ギリシアの哲学者であるアリストテレスは、人間の知的な営みを「プラクシス」と「ポイエーシス」に分けました。プラクシスは「他者に働きかけて、変えようとする」ことを指します。一方、ポイエーシスは「本来あるものを引き出し形にしていく」ことです。マネージャーや経営層は、社員にポイエーシス的な考え方で接することが重要だと考えています。つまり、社員一人ひとりに寄り添いながら、それぞれの「変」を引き出していくという関わり方です。その積み重ねが、創造的な会社風土の醸成につながっていくのです。
実は、教育するという英語の「educate」も、元はラテン語で「引き出す」という意味でした。人を育てることは、内面にあるものを引き出して伸ばすことです。あるべき姿(=正解)を掲げて、そこからの減点法で人を評価するだけでなく、個人の中にある多様性を受け入れ、伸ばすべきところを見極めて関わっていく「加変法」の姿勢も大切になる時代になりました。

内外を行き来する、”変帯”でイノベーションが生まれる
平尾 社員の「変」なところを引き出すことができれば、自然とイノベーション人材になるということなのでしょうか。
小西氏 皆と同じ「中心」に寄りすぎず、かつ異質な方向にも寄りすぎていない、双方を行き来できる状態が、イノベーション人材として理想です。私たちはそうした領域をまともさと異質さの混ざり合う「変帯」と呼んでいます。中心化しすぎると相対評価に偏り、自己肯定感が下がって発想力も失います。しかし、異質な方向に突き抜けても、中心化されている人から相手にされず、社会的な影響力を失います。

平尾 普通に生活していると、中心に寄ってしまいそうです。変帯に留まるためには何が必要なのでしょうか。
小西氏 変帯で活躍できる人になるためには、異質な領域との接点を持つことが重要です。学生であれば、異質な領域に踏み入れることで、国内外への留学や社会課題に触れるなど、今までしたことのないような経験を積むことができます。大学でもそのような多様な経験ができるよう、ギャップ・イヤー(体験活動のための猶予期間)制度を推奨しています。企業も、猶予期間を設けるのが有効です。例えば私が研修に関わっている株式会社山陰パナソニックでは、社員に「青春18きっぷ」を渡して、自由に旅をさせる期間を設けています。その旅の間は一日10人以上と話をして、どんな出会いだったか、どんな話をしたかをSNSで共有する、という取り組みがなされています。
「当たり前のことが、実は当たり前ではない」という経験をどれだけ積み重ねていくことができるか。異質な世界の存在を常に感じるために何ができるのか。そのような発想で教育や人材育成をとらえていくことも大切です。こうした発想が、会社全体の視野を広げ、自社が解決すべき社会課題を見つける契機になります。文化人類学者がフィールドワークをするように、ビジネスパーソンもさまざまな越境体験を積むことで、中心化した自分を見つめ直すことが必要なのではないかと考えています。
自己肯定感を高める。新たな評価軸を持とう
平尾 組織の成長につながるために、社員の「変」なところを引き出す方法を伺いました。自分の「変」なところに気づくことで、社員自身の成長にもつながるのでしょうか。

小西 もちろんです。「中心」から離れ、自他の異質性を尊重できている人のことを、我々は「変さ値」が高い人と呼んでいます。「変さ値」は常識にとらわれない発想ができたり、数値で測ることができない能力やスキルを表す「非認知能力」を高めたりすることにつながります。日本では数値で測ることができる学力(偏差値)やIQ、KPIなどの評価指数を極度に重視する傾向がありますが、それだけではない「変さ値」「非認知能力」をベースとした新たな資質や能力にも光を当てるべきだと考えています。それが、社員一人一人の自信と創造性につながるのです。
「べき論」や「当たり前」という枠組みだけで世界を見てしまうと、さまざまなものが「変」として排除されてしまいますが、そこにこそ不確実な時代に適応するためのヒントが隠されています。日常的に感じる違和感やモヤモヤした気持ちにも光を当ててほしいのです。それが数値化できる評価に拘泥することのない、新たな発想の源泉になるのではないでしょうか。

小谷 日本には、外部から求められるパフォーマンスや成績を追求することが善だとする考えの人が多くいます。学校で与えられた課題をこなし、学校の求める能力を磨くだけでは、変さ値は伸びないということなのですね。
小西 これまで学校教育は、認知能力の向上にばかり力を注いできました。全ての子どもたちが、数値化できる同じ評価軸で序列化されてきたのです。そのため、トップに立つことのできない子どもたちの自己肯定感を減退させてきましたし、「落ちこぼれ」として評価制度に乗れない子どもたちを周辺へと追いやってきたのです。
仮に認知能力が低かったとしても、多様な評価軸で人間を捉えれば、それぞれ才能の溢れた子どもたちとなるのです。「三年寝太郎」(いつも寝ている男が、突然起きて村を救う民話)のような人がいても良いと思っています。光の当て方が違うのです。ひとつの軸で上を目指すのではなく、その人の中に眠る多様な「変」を見つけ出して伸ばし、「変」な部分を四方八方に尖らせていくことで、その人ならではの価値創出につながると思います。そのような人材の育成方法と、それを可能にする環境こそ、今の時代に求められているのではないでしょうか。

平尾 POT Instituteが掲げる「変革人材」の考え方に似ています。一般的に優秀な人材だとされる人ではなくても、変革の素質を持っている人は多いです。そうした人たちが、中心化されている世界を少しずつ抜け出し、「変帯」にいくことができれば、イノベーションが連続的に起こる世界が訪れそうです。社員が持つ素質を引き出し、伸ばしていくことが、企業の成長につながると言えそうですね。
本記事は、POT Instituteの取材に基づくものです。
POT Instituteは、変革人材が持つ資質を研究している組織で、ビジネスパーソンの資質を可視化するアセスメント開発などを行っています。
お問い合わせはjinzai@alphadrive.co.jpまで。